研究の成果

2011年から2023年の12年間で福島第一原発で発生した原子力災害に関連した論文を共著も含めて21報公開してきました。それらを年代の新しい方から順に下にまとめています。その中で特に私たちが主力となって発表した論文はすこし分かりやすく解説いたします。

▶K. Fueda*, T. Komiya*, K. Minomo, K. Horie, M. Takehara, S. Yamasaki, H. Shiotsu, T. Ohnuki, B. Grambow, G. T. W. Law, R. C. Ewing, & S. Utsunomiya, Occurrence of radioactive cesium-rich micro-particles (CsMPs) in a school building located 2.8 km south-west of the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant. Chemosphere, 328 (2023) 138566. DOI: 10.1016/j.chemosphere.2023.138566
プレスリリースをご覧ください。

▶Satoshi Utsunomiya, Kazuki Fueda, Kenta Minomo, Kenji Horie, Mami Takehara, Shinya Yamasaki, Hiroyuki Shiotsu, Toshihiko Ohnuki, Gareth, T. W. Law, Bernd Grambow, and Rodney C. Ewing (2022) Radioactive nano- and micro-particles released from Fukushima Daiichi: Technical challenges of multiple analytic techniques. In: Javier Jimenez Lamana & Joanna Szpunar (eds) Environmental Nanopollutants: Sources, Occurrence, Analysis and Fate. p15 – 48, Royal Society of Chemistry Book series. D
OI: 10.1039/9781839166570-00015
こちらの論文は本の章になっています。これまでのCsMP研究における主要な成果をまとめるとともに、分析の際に難しい点を説明してます。入手をご希望のかたはお知らせ頂けますと、無料でPDFをお送りします。

共著論文
S. Yamasaki, H. Saito, T. Nakamura, K. Morooka, K. Sueki, & S. Utsunomiya, Gravitational separation of  137Cs contaminated soil in Fukushima environment: Density dependence of 137Cs activity and application to volume reduction. Journal of Environmental Radioactivity, 246, 106846.
DOI: 10.1016/j.jenvrad.2022.106846

▶ K. Fueda, R. Takami, K. Minomo, K. Morooka, K. Horie, M. Takehara, S. Yamasaki, T. Saito, H. Shiotsu, T. Ohnuki, G. T. W. Law, B. Grambow, R. C. Ewing, & S. Utsunomiya, Volatilization of B4C control rods in Fukushima Daiichi nuclear reactors during meltdown: B–Li isotopic signatures in cesium-rich microparticles. Journal of Hazardous Materials (2022)
DOI: 10.1016/j.jhazmat.2022.128214
プレスリリースをご覧ください

共著論文
T. Kato, N. Kozai, K. Tanaka, D. I. Kaplan, S. Utsunomiya & T. Ohnuki, Chemical species of iodine during sorption by activated carbon -Effects of original chemical species and fulvic acids- Journal of Nuclear Science and Technology. (2021)
DOI: 10.1080/00223131.2021.1993370

共著論文
S. Yamasaki & S. Utsunomiya, A review of efforts for volume reduction of contaminated soil in the ten years after the accident at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant. Journal of Nuclear Science and Technology, (2022)
DOI: 10.1080/00223131.2021.1974596

共著論文 
B. Grambow, A. Nitta, A. Shibata, Y. Koma, S. Utsunomiya, R. Takami, K. Fueda, T. Ohnuki, C. Jegou, H. Laffolley & C. Journeau, Ten years after the NPP accident at Fukushima : review on fuel debris behavior in contact with water. Journal of Nuclear Science and Technology, (2022)
DOI: 10.1080/00223131.2021.196634

▶K. Morooka, E. Kurihara, M. Takehara, R. Takami, K. Fueda, K. Horie, M. Takehara, S. Yamasaki, T. Ohnuki, B. Grambow, G.T.W. Law, J.W.L. Ang, W.R. Bower, J. Parker, R.C. Ewing, S. Utsunomiya,
New Highly Radioactive Particles Derived from Fukushima Daiichi Reactor Unit 1: Properties and Environmental Impacts, Science of The Total Environment, (2021) 145639, https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2021.145639.

福島第一原子力発電所(FDNPP)の北北西、双葉町に向かって伸びる汚染領域には、1号機から放出された高濃度の放射性粒子が含まれています。これらの粒子の生理化学的特性や環境への影響については不明な点が残されています。本研究では、FDNPPの北北西3.9kmで採取した表層土壌から31個の放射性粒子を分離しました。これらのうち2つの粒子は、福島で報告されたこれまでで最も高い134+137Cs放射能を有していました(20113月までの減衰補正後、粒子あたり6.1×105及び2.5×106Bq)。FTB1とラベリングされた新しい高放射性粒子は、0.8 wt.%程度のCsを含む非晶質構造を持つ葉片状の珪酸塩ナノ粒子の集合体であり、SiO2TiO2の内包物を含んでいます。FTB1は、揮発したCsを吸着した後に水素爆発で損傷した原子炉建屋構造物に由来していると推測されます。FTB26と名付けられたもう一つの高放射性粒子の134+137Cs放射能は106Bqを超えていました。FTB26は非晶質ガラス状の炭素コアと多数の微小粒子(Pb-Sn合金、繊維状のAl-ケイ酸塩、Ca-炭酸塩又は水酸化物、及び石英)が埋め込まれた表面を有しています。微小粒子の同位体比は、Bによる中性子捕獲,Csの揮発,天然Baの吸着を示しました。FTB26上の微粒子の組成は、水素爆発時の空気中の微粒子の組成を反映していると考えられます。高放射性粒子はその大きさから、健康への影響は皮膚との静的接触でおこる外部被爆に限られており、人体への影響はほとんどないと考えられます。高放射性粒子の動態を調べることで、1号機の影響を受けた環境で放射線量がどのように移動していくのかをより正確に理解することができます。また、高放射性粒子は、1号機爆発時の建屋内雰囲気や原子炉溶融時の物理的科学的現象の解明にも役立ちます。


 

共著論文 
T. Ikenoue, M. Takehara, K. Morooka, E. Kurihara, R. Takami, N. Ishii, N. Kudo, & S. Utsunomiya, Occurrence of highly radioactive microparticles in the seafloor sediment from the pacific coast 35 km northeast of the Fukushima Daiichi nuclear power plant. Chemosphere, 267 (2021) 128907.
https://doi.org/10.1016/j.chemosphere.2020.128907
 

共著論文
K. Murota, K. Tanoi, A. Ochiai, S. Utsunomiya, & T. Saito, Desorption mechanisms of cesium from illite and vermiculite. Applied Geochemistry, 123 (2020) 104768. https://doi.org/10.1016/j.apgeochem.2020.104768


 

▶E. Kurihara, M. Takehara, M. Suetake, R. Ikehara, T. Komiya, K. Morooka, R. Takami, S. Yamasaki, T. Ohnuki, K. Horie, M. Takehara, G.T.W. Law, W. Bower, J. Frederick W. Mosselmans, P. Warnicke, B. Grambow, R. C. Ewing, & S. Utsunomiya, Particulate plutonium released from the Fukushima Daiichi meltdowns. Science of The Total Environment 743 (2020) 140539. https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2020.140539

 20113月に福島第一原子力発電所(FDNPP)から放出された物質から微量のPuが検出されてきましたが、これまでPuの物理的及び化学的形態は分かっていませんでした。本報告では、FDNPPのメルトダウン時に原子炉内で生成し、原子炉から放出された高濃度セシウム含有微粒子(CsMP)に含まれていたPuを発見しました。Cs-polluciteが含まれるCsMPには、10 nmU(IV)O2ナノ粒子が含まれており、そのうちの1つはZr被覆管の断片に隣接してPuが濃縮されていました。CsMP235U/238U, 240Pu/239Pu, 242Pu/239Puの同位体比は、それぞれ~0.0193, ~0.347, ~0.065であり、FDNPPで使われていた燃料の同位体比の計算値と一致しました。福島県内のCsMPの分布とPuの分布を比較して考えると、Puの長距離拡散は、ナノスケールの燃料片を取り込んだCsMPによる輸送が原因になっていると考えられます。



▶R. Ikehara,* K. Morooka,* M. Suetake, T. Komiya, E. Kurihara, M. Takehara, R. Takami, C. Kino, K. Horie, M. Takehara, S. Yamasaki, T. Ohnuki, G. T. W. Law, W. Bower, B. Grambow, R. C. Ewing, & S. Utsunomiya, Abundance and distribution of radioactive cesium-rich microparticles released from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant into the environment. Chemosphere  241(2020) 125019. * Two authors contributed equally. https://doi.org/10.1016/j.chemosphere.2019.125019

 20113月に福島第一原子力発電所から放出された高濃度放射性セシウム含有微粒子(CsMP)の分布を同発電所周辺で採取した20の表層土壌を対象にしてマップ化しました。表層土中のCsMPの数(個/g)と放射能割合(RF値: CsMP放射能の和を土壌サンプルの総放射能で割った値)の空間分布から、特に (i.) 近傍北西(N-NW)、(ii.)遠方北西(F-NW)、(iii)南西、の3つの地域に特徴が見られました。これらの地域では、CsMPの数とRF値はそれぞれ22 – 101/g15.4 – 34.0 %24.3 – 64.8/g36.7 – 37.4%0.869 – 8.00/g27.6 – 80.2%と算出されました。これらの分布は、2011 3 14 日の午後遅くから 15 日の午後遅くまでの FDNPP から放出された物質のプルームの軌跡と一致しており、CsMP が形成されたのはこの短い期間に限られていることを示しています。3号機は、放出事象との比較から、放出開始時の CsMP の発生源として最も可能性が高いことが分かりました。北北西部のRF値が低いのは、降水と同時に形成された可溶性Csを主成分とするプルームの影響が大きいことを示しています。CsMPの分布の定量的なマップは、CsMPの拡散動態を理解する上で重要であり、居住地域におけるリスク評価にも活用できます。



▶S. Utsunomiya, G. Furuki, A. Ochiai, S. Yamasaki, K. Nanba, B. Grambow, & R. C. Ewing, Caesium fallout in Tokyo on 15th March, 2011 is dominated by highly radioactive, caesium-rich microparticles. ArXiv, (2019) 1906.00212.

福島第一原発から放出された高濃度放射性セシウム含有微粒子(CsMP)は遠く関東地方まで到達しました。本研究では東京で採取したCsMPを高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)を用いて原子レベルで分析し、エアフィルターを用いて溶解実験を行いました。2011315日のフィルターでは0.58 – 2.0 μmの大きさのCsMPが全Cs放射能の80 % - 89 %を占めていました。東京と福島のCsMPは、ナノスケールでは同じ組織を示しました。東京で発見されたCsMP0.55 – 10.9 wt.%)のCs濃度は、福島で発見された粒子(8.5-12.9 wt.%)よりも低くなりましたが、東京で発見されたCsMPの単位質量あたりの放射能は〜1011 Bq/gと高くなっています。したがって、低溶解度のCsMPを吸入した場合、β線(CsMP表面の厚さ100 μmの水層内で0.51 - 12×10-3 Gy/h)による高い局所的なエネルギー蓄積をもたらし、可溶性Cs種の場合と比較して長期的な影響を及ぼす可能性があります。

 

▶M. Suetake, Y. Nakano, G. Furuki, A. Ochiai, R. Ikehara, T. Komiya, E. Kurihara, K. Morooka, S. Yamasaki, T. Ohnuki, K. Horie, M. Takehara, G. T. W. Law, W. Bower, B. Grambow, R. C. Ewing, & S. Utsunomiya, Dissolution of radioactive, cesium-rich microparticles released from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant in simulated lung fluid, pure-water, and seawater. Chemosphere 233 (2019) 633-644. DOI: 10.1016/j.chemosphere.2019.05.248

福島第一原子力発電所から放出された高濃度放射性セシウム含有微粒子(CsMP)の溶解挙動を理解するために、福島県の土壌から分離されたCsMP(137Cs放射能が108 Bq57.8 Bq)に対して、模擬肺液、超純水、人工海水の3種類の溶液を用いて、2537 ℃1 – 63日間、系統的な溶解実験を初めて行いました。137Cs3日以内に急速に放出され、その後、各溶液で定常溶解状態に達しました。模擬肺液、超純水、人工海水について、25 ℃における137Csの定常放出速度は、それぞれ4.7 × 1031.3 × 1031.3 × 103 Bqm-2s-1であると求められました。このことは、模擬肺液がCsMPの溶解を促進していることを示しています。CsMPの溶解速度はケイ酸質ガラスとほぼ同等であり、Csの放出は、ケイ酸の溶脱が律速しています。この溶解速度をもとに、2 Bq程度のCsMPが吸入されて肺胞領域に沈着した場合、溶けるまでに35年以上の時間をようすると計算されました。CsMPは数十年にわたって環境中に存在する可能性があり、環境中の放射性Csの長期的な影響に寄与する重要な因子となります。



▶R. Ikehara, M. Suetake, T. Komiya, G. Furuki, A. Ochiai, S. Yamasaki, W. Bower, G. Law, T. Ohnuki, B. Grambow, R. C. Ewing, & S. Utsunomiya, Novel method to quantify radioactive cesium-rich microparticles (CsMPs) in the environment from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant. Environmental Science & Technology, 52 (2018) 6390-6398 DOI: 10.1021/acs.est.7b06693.

20113月の原子力災害の初期段階で、福島第一原子力発電所から高濃度放射性セシウム含有微粒子(CsMP)が周辺環境に放出されましたが、放出されたCsMPの量は正確には分かっていませんでした。本研究では、オートラジオグラフィを用いて、福島周辺の表土中のCsMPの数とその寄与率を定量する新しい方法を開発しました。ここでは、光刺激ルミネセンス(PSL)は様々な微粒子の放射能と線形の相関を示し、回帰係数は0.0523 Bq/PSL/hと算出されました。福島県長泥から採取した土壌では、114 μmメッシュでふるいにかけた土壌からほぼすべてのCsMPが検出されました。定量されたCsMPの放射能ヒストグラムから、CsMP同定のための基準を114 μm未満かつ放射能しきい値0.06 Bqと決めました。この方法に基づき、FDNPP周辺から採取した4つの表層土壌中のCsMPの粒子数及び放射能割合は、それぞれ1 gあたり48 - 318粒子及び8.53 - 31.8%と算出されました。この新しく開発されたQCP法は、約106 Bq/kgの高い放射能を持つ土壌に適用可能です。QCP法は福島周辺の地表環境における高放射性CsMPの分布と移行を定量的に把握する上で非常に重要な手法になると考えられます。



▶A. Ochiai, J. Imoto, M. Suetake, T. Komiya, G. Furuki, R. Ikehara, S. Yamasaki, G. Law, T. Ohnuki, B. Grambow, R. C. Ewing, & S. Utsunomiya, Uranium dioxides and debris fragments released to the environment with cesium-rich microparticles from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant. Environmental Science & Technology, 52 (2018) 2586-2594, DOI: 10.1021/acs.est.7b06309

福島第一原子力発電所(FDNPP)のメルトダウンに伴い、微量のUが環境中に放出されましたが、放出された核燃料成分の化学状態は明らかになっていませんでした。本研究では、福島第一原子力発電所から環境中に放出された核燃料のナノ粒子の原子レベルでの特性を初めて報告しました。試料はFDNPPから約4 km離れた水田土壌から採取し、その中から高濃度放射性セシウム含有微粒子(CsMP)が見つかりました。さらに透過電子顕微鏡を用いてこれらCsMPとウラン酸化物ナノ粒子が共存していることを発見しました。ウラン酸化物つまり核燃料のナノ粒子は、CsMPに包まれているか、CsMPに付着している状態で存在するとともに、2つの異なる化学形態をとっていましあt。(i)サイズが約70nmの二酸化ウランナノ結晶は、表面にTcMoを含むマグネタイトに埋め込まれており、(ii)サイズが約200 nmの立方晶(U,Zr)酸化物共晶は、U/(U+Zr)モル比が0.14から0.91の範囲であり、結晶化中の蒸気や核分裂生成ガスの巻き込みを示していました(6 nm)。これらの結果は、溶融燃料と原子炉材料の混合物であるナノスケールのデブリの物理的及び化学的特性が不均質であることを示しており、メルトダウン時のFDNPP原子炉内の複雑な熱プロセスを反映しています。また、CsMPはデブリの破片を吸入可能な形で環境中に輸送する重要な媒体になっていると言えます。


共著論文
 X. Yin, N. Horiuchi, S. Utsunomiya, A. Ochiai, H. Takahashi, Y. Inaba, X. Wang, T. Ohnuki, & K. Takeshita, Effective and efficient desorption of Cs from hydrothermal-treated clay minerals for the decontamination of Fukushima radioactive soil. Chemical Engineering Journal 333 (2018) 392-401.



 ▶J. Imoto*, A. Ochiai*, G. Furuki, M. Suetake, R. Ikehara, K. Horie, M. Takehara, S. Yamasaki, K. Nanba, T. Ohnuki, G. T. W. Law, B. Grambow, R. C. Ewing, & S. Utsunomiya. Isotopic signature and nano-texture of cesium-rich micro-particles: Release of uranium and fission products from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant. Scientific Reports, 7 (2017) 5409 | DOI:10.1038/s41598-017-05910-z. *Two authors contributed equally.
福島第一原子力発電所(FDNPP)から放出された高濃度放射性セシウム含有微粒子(CsMP)は、内部に化学的痕跡を残しています。本研究ではFDNPPから10 km圏内から発見された3つのCsMP3.79 – 780 Bq)について、U, Cs, Ba, Rb, K, Caの同位体比を測定し、CsMPの起源と生成メカニズムを明らかにしました。まずこれらのCsMPには最大30 wt.%Cs1 wt.%Uが含まれていました。2つのCsMPにおける235U/238U同位体比は0.030(±0.005)0.029(±0.003)と決定され、これらの値はORIGENコードで推定された福島第一原発で使われていたウランの平均燃焼度よりも高く、未使用の核燃料中ウランの同位体比よりも低いことから、燃焼度の異なる溶融燃料からUが不均一に揮発したことを示唆しています。本研究ではナノスケール分析と同位体分析から、メルトダウン中に燃料中で起こった化学反応の一部を記録することができました。また、CsMPは放出された放射性核種の輸送媒体として重要な役割を果たしていることが分かります。


共著論文
 X. B. Yin, L. Zhang, A. Ochiai, S. Utsunomiya, H. Takahashi, T. Ohnuki, & K. Takeshita. Effect of temperature on K+ and Mg2+ extracted desorption of Cs from vermiculitized biotite, Chemistry Letters, 46 (2017) 1350–1352 | doi:10.1246/cl.170551.



G. Furuki*, J. Imoto*, A. Ochiai, S. Yamasaki, K. Nanba, T. Ohnuki, B. Grambow, R. C. Ewing, & S. Utsunomiya. Cesium-rich micro-particles: A window into the meltdown events at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant, Scientific Reports, 7 (2017) 42731. *Two authors contributed equally as the first author.

 20113月に発生した福島第一原子力発電所の原子力災害は、3基の原子炉の部分的なメルトダウンを引き起こしました。メルトダウンの際、原子炉内では、未知のプロセスで凝縮された粒子の一種である高濃度放射性セシウム含有微粒子、CsMPが生成されました。本論文では、FDNPP周辺で発見されたCsMPの原子分解能電子顕微鏡観察に基づいて、メルトダウン時の原子炉内部でのCsMP生成の化学的・物理的過程を報告しました。CsMPはサイズが2.0 – 3.4 μmで、幅広いCs濃度(CsCs2Oとして1.1 - 19 wt.%)を保持するのに加えて、微量のUも含んでいました。CsMP内部のナノ組織は、メルトダウン時のいくつかの反応過程を記録しています。CsOHCsClを含む様々な核分裂生成物ナノ粒子が炉内に浮遊していたこと、溶融燃料(溶融炉心)-コンクリート相互作用(MCCI)が起きたことなどが分かりました。CsMPUのような揮発性・低揮発性の放射性核種が環境に放出されるメカニズムと考えられ、FDNPPを取り巻く環境中のCsと放射性核種の移行モデルに考慮されるべき因子と言えます。



▶ S. Yamasaki, J. Imoto, G. Furuki, A. Ochiai, T. Ohnuki, K. Sueki, K. Nanba, R. C. Ewing, & S. Utsunomiya, Radioactive Cs in the estuary sediments near Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant. Science of the Total Environment, 551-552 (2016) 155-162.

 福島第一原子力発電所(FDNPP)周辺地域では、放射性セシウム(主に134Cs137Cs)の移動と拡散が重要となっています。特に降雨によって引き起こされる洪水時の放射性Csの表層水による輸送の特性と動態を理解する時には、かなりの不確実性が残されています。本研究では、第一原子力発電所の南4.0 kmに位置する熊川から採取した河口域の特殊な堆積物の物理的・化学的特性を明らかにしました。これらの堆積物は暴風雨後に堆積したもので、海岸砂上に乾燥した板状の堆積物として存在していました。堆積物の粒径の中央値は2832 μmで、堆積した層の底部に向かって放射能が増加しており、上層では約28 Bq g-1、下層では約38 Bq g-1となりました。放射能の違いは、下層で放射性セシウムを収着している粒子数が多いことに起因しており、表層水によって輸送された浮遊土壌中の放射性セシウムが時間の経過とともに減少していることを示唆しています。また、逐次化学抽出を行った結果、河口域の試料では約90%137Csが残渣相(つまり粘土相)に強く結合しているのに対し、水田土壌では約6080%137Csが粘土相に結合していることが明らかになりました。模擬海水に対する脱着実験の結果、137Cs96%以上が粘土に強く結合したまま残りました。このことから、137Csが海洋中に分散する際の移動時間と距離を決定する重要な因子が、Csを保持する粒子のサイズであること示唆されました。

  

M. Kaneko, H. Iwata, H. Shiotsu, S. Masaki, Y. Kawamoto, S. Yamasaki, Y. Nakamatsu, J. Imoto, G. Furuki, A. Ochiai, K. Nanba, T. Ohnuki, R. C. Ewing & S. Utsunomiya, Radioactive Cs in the severely contaminated soils near the Fukushima Daiichi nuclear power plant. Frontiers in Energy Research 3:37. doi: 10.3389/fenrg.2015.00037.

 福島第一原子力発電所から数km以内の土壌中には、137Cs(半減期30.07)及び134Cs(半減期2.062)の放射性Cs同位体が4×105から5×107 Bq/kg存在しています。これらの土壌中のCsの化学状態のサイズ特性を理解するために、4つの表層土壌の全体及びサイズ分画した試料に対して、粉末X線回折分析,走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた分析、逐次化学抽出を行いました。土壌試料中には主な鉱物として石英,長石,粘土鉱物が同定されました。一方、同じ土壌から溶出した1ミクロンよりも小さい(サブミクロンサイズ)粒子は、主に雲母、バーミキュライト、スメクタイトから構成されていました。また、オートラジオグラフィーとSEM分析により、主にサブミクロンサイズの粒子に放射性セシウムが付着していることが確認されました。最大で3M Bq/kg137Csがコロイドサイズ(<1μm)の粒子に収着されており、全放射能の78%を占めています。土壌全体の連続抽出の結果からもほとんどのCsが残渣相(粘土相)に保持されていることが明らかになり、Csのアルミノ珪酸塩層状構造への高い親和性が確認されました。それとともに同じサンプルのサブミクロンサイズの試料に対する逐次抽出の結果も土壌全体と同じ傾向を示し、大きな石英や長石などの大きな粒子が含まれている場合でもサブミクロンサイズの粘土鉱物にCsが主に吸着していることが明らかになりました。また、粒子径が非常に小さいにもかかわらず、これらサブミクロン粒子は凝集することによって鉛直方向への移動が遅くなり、その結果、土壌の上部5 cm以内に98%以上のCsが保持されていることが分かりました。これらの結果は、表層環境中におけるサブミクロンサイズの粘土鉱物凝集体の移行挙動が福島での現在のCsの移動をきめる重要な要因であることを示唆しています。



▶H. Iwata, H. Shiotsu, M. Kaneko, & S. Utsunomiya. Nuclear accidents in Fukushima, Japan and exploration of effective decontaminant for the 137Cs-contaminated soils. In Advances in Nuclear Fuel (ed. Shripad T. Revankar) p123-142, Intech 2012.




特に重要な研究のハイライト
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九州大学理学部 宇都宮研究室