九州大学 界面物理化学研究室
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研究内容の紹介

■研究の基本方針

界面物理化学研究室では界面活性剤の吸着ならびに会合体形成を独自に導出した熱力学式を用いて解析するところから研究をスタートしています。

例えば、界面活性剤の吸着量を計算する際によく用いられるギブスの吸着式は圧力を変数に取っていないために(これは数学的には界面を一枚の平らな面として捉えることに対応しています)、界面張力の温度変化ならびに圧力変化から物理的に意味のある情報を引き出すことができません。

これに対し、圧力を変数として界面を二枚の分割面に挟まれた領域として定義する私たちの方法では、界面張力の温度変化から溶液中から界面活性剤が吸着する際に起こる部分モルエントロピー変化を、圧力変化からは吸着に伴う部分モル体積の変化を見積もることができます。

また、混合吸着膜や混合ミセル中での分子間相互作用を正則溶液によって取り扱うモデルが定性的にも誤った結論を導く場合があることを証明し、過剰熱力学量に基づいた新しい解析手法を提案しています。熱力学的な手法は分子間相互作用の平均としての分子の集合物性を取り扱うものですが、厳密な熱力学式を正確な測定データに適用して解析を行い、ターゲットを絞って系統的に実験を展開すると、熱力学的な方法でも分子集合体の構造をかなり正確に把握できることがわかってきました。最近はこのような「分子界面熱力学的な手法」によって推察した描像を、液/液界面でのX線反射や回折、エリプソメトリー、表面反射IRといった「界面構造化学的手法」によって検証する、あるいは、二つの手法を融合させて、より詳細な界面現象の理解へつなげる方向へ研究を発展させているところです
■最近の研究内容

界面活性剤の吸着膜には3次元の気体,液体,固体に相当する,気体膜,膨張膜,凝縮膜という3つの状態があり,これらの状態の間で相転移が起こると,界面の物性は大きく変化します.

例えば,吸着膜の相転移に伴う不連続な吸着量の変化は,同時にイオン性界面活性剤の対イオンの分布を変化させます.このような特徴を巧く利用すると,泡やエマルションなど吸着膜によって安定化されたコロイド分散系の物性を温度で不連続に制御することができます.

また熱力学的には同じ吸着膜(凝縮膜)に分類される場合でも,分子レベルでは多様な構造が許されることが気−液界面でのX線反射率測定から明らかになってきており、このような吸着膜の構造情報をもとにして,界面活性剤水溶液上のアルカン液滴の3つの界面(空気−アルカン,アルカン−水,空気−水の界面)の状態を制御すると,アルカン滴の自発的な分裂(と合一)を誘起することができることが示されています.この研究結果は,複数の界面が接触する1次元領域の安定性の問題へと発展し,界面張力の1次元のアナロジーである線張力が負(正)の値をもつことが液滴の自発分裂(合一)の駆動力であるという重要な発見につながりました.

コロイドの分散と凝集に関する安定性は,粒子の間に働く電気2重層力とファンデルワールス力を考慮したDLVO理論で説明される場合が多いですが,実際には泡やエマルションはクリーミング(凝集)した状態が極めて安定で,最終的に合一が起こるまで非常に長い時間を要するものが多くあります.

このような観点から,線張力が界面が接触した線の拡張と収縮を支配するという発見は,コロイドの凝集→合一に関する安定性の問題に新しい物理化学的な根拠を与えるものとして大変重要だと考えています.