江原 巧 (EHARA Takumi)
出身
熊本県 熊本県立済々黌高等学校
趣味
サッカー、旅行、うどん、サウナ
座右の銘
男は黙って非線形
研究テーマ:時間分解分光を用いた機能性金属錯体の励起状態ダイナミクス解明
金属錯体は、金属イオンと配位子の組み合わせから、多様な電子状態を形成、制御することが可能であり、その優れた光物性から有機EL素子や光触媒および光増感剤など、多種多様に応用されています。近年、優れた光機能を示す金属錯体が多く報告されていますが、励起状態の直接的な観測、分子レベルでの理解が追いついていない状況にあります。そこで本研究では、時間分解赤外分光(TR-IR)、過渡吸収分光(TAS)、時間分解発光分光(TR-PL)などの超高速分光を用いて、励起された分子の電子・構造のダイナミクスを調べ、金属錯体のさらなる機能を引き出せるような設計指針を提案します。
研究テーマ1:リング状Re(Ⅰ)多核錯体の分子内励起エネルギー移動機構の解明
貴金属錯体を用いた光増感剤と触媒によるCO2還元反応系が注目を集めています。リング状Re(Ⅰ)多核錯体(図1-a)を利用した系は非常に高い反応量子収率を示しますが、分子論的なメカニズムは未解明です。本研究では励起直後に起こる分子内励起エネルギー移動の過程(図1-b)をTR-IRを用いて調べています。
[参考文献]
- Yamazaki Y., et al. Inorg. Chem., 2018, 57, 15158-15171.
- Sei’ichi T., et al. Chem. Phys. Letter, 2016, 662, 120-126.
研究テーマ2:含カルコゲンヘテロレプティック銅錯体の励起状態ダイナミクス
光増感剤、酸素センサーなど用いられる貴金属錯体の代替物として、異なる 2 座配位子 を用いたヘテロレプティック銅錯体がその還元力や優れた発光特性から広く研究されています。 成蹊大学の山﨑らはdppaS2–配位子を持つ銅錯体を研究し、ジホスフィン配位子をビナフチル基で架橋 した Cu(dppaS2–)(BINAP)((図 2-a)は、室温 、ジクロロメタン 溶液中で118 μs と顕著な長寿命発光を示すことを報告しました1。本研究では過渡吸収分光(TA)、時間分解赤外分光(TR-IR)を 用いて、ピコ秒の時間スケールで生じる励起状態の スペクトル変化から、この優れた物性の起源を探ります。
[参考文献]
- 1.Y. Yamazaki, et al., Inorg. Chem. 2020, 59, 17, 12375–12384.
研究テーマ3:白金ベイポクロミズム錯体の励起状態構造ダイナミクス
[Pt(CN)2bpy]結晶は水蒸気の曝露によって、発光色が 610 nm(赤色: Red form) から 570 nm(黄色: Yellow form)に変化するというベイポクロミズム特性を示します。結晶構造解析から乾燥した状態では一定の間隔で比較的直線状に配列していた分子が、水蒸気の曝露によって 2 種類の Pt-Pt 間距離を持つようになり、3つの隣接する Pt 原子がなす角度も大きく変化するといった結晶構造の変化を示すことが確認されています。しかし、発光色に関与する励起状態の構造ダイナミクスは未解明 であるため、本研究では時間分解赤外分光法(TR-IR)を用いて、励起状態のCN基伸縮振動の振動数の変化を観測しました。
[参考文献]
- S. Kishi, M. Kato, Mol. Cryst. Liq. Cryst. 2002, 379, 303.
- K. Sasaki, et al., Inorg. Chem. 2021, 60, 9, 6140–6146.
研究テーマ4:過渡吸収分光によるアルミニウム二核三重螺旋錯体の溶媒依存発光特性の解明
アルミニウム二核三重螺旋錯体は配位子の種類に応じて多彩な円偏光発光を示しますが、励起状態の構造や、配位子の種類によって異なる溶媒依存性など未解明な点が多い分子です。特にメチン部位にメチル基の修飾がないAl-Hは、溶媒を変えても発光スペクトルの形状、ピーク波長の変化がないにも関わらず、発光量子収率(PLQY:PhotoLuminescence Quatum Yield)は溶媒に大きく依存します。そこで本研究では光励起後のダイナミクスの溶媒依存性を過渡吸収分光法によって観測しました。
[参考文献]
- Ono, T. et al. Angewandte Chemie – International Edition 2021, 60, 2614–2618.
- Ishihama, K. et al., Bull. Chem. Soc. Jpn. 2021, 94, 573–578.
業績
【原著論文】
[4]“Structural-transformation-induced Drastic Luminescence Changes in an Organic-Inorganic Hybrid[ReN(CN)4]2− Salt Triggered by Chemical Stimuli”
Ryo Ohtani, Xu Jianeng, Junichi Yanagisawa, Yuudai Iwai, Takumi Ehara, Kiyoshi Miyata, Ken Onda, Jenny Pirillo, Yuh Hijikata, Tomoaki Hiraoka, Shinya Hayami, Benjamin Le Ouay, Masaaki Ohba
Angew. Chem. Int. Ed., e202306853, (2023).
[3] “Highly Fluorescent Bipyrrole-based Tetra-BF2 Flag-hinge Chromophores: Achieving Multicolor and Circularly Polarized Luminescence“
Luxia Cui, Hyuga Shinjo, Takafumi Ichiki, Koichi Deyama, Takunori Harada, Kohei Ishibashi, Takumi Ehara, Kiyoshi Miyata, Ken Onda, Yoshio Hisaeda, Toshikazu Ono*
Angew. Chem. Int. Edit., e202204358 (2022).
[2] “Characterization of Excited States in a Multiple-Resonance-Type Thermally Activated Delayed Fluorescence Molecule Using Time-Resolved Infrared Spectroscopy“
Masaki Saigo, Yuushi Shimoda, Takumi Ehara, Tomohiro Ryu, Kiyoshi Miyata, and Ken Onda*, Bulletin of the Chemical Society of Japan, Advance Publication.
[1] “Determining Excited-State Structures and Photophysical Properties in Phenylphosphine Rhenium(I) Diimine Biscarbonyl Complexes Using Time-Resolved Infrared and X-ray Absorption Spectroscopies” Yuushi Shimoda, Kiyoshi Miyata, Masataka Funaki, Takumi Ehara, Tatsuki Morimoto, Shunsuke Nozawa*, Shin-ichi Adachi, Osamu Ishitani, Ken Onda* Inorg. Chem. 60, 7773-7784 (2021).
【学会発表】
[8]「Excited-State Dynamics of D3-Symmetric Dinuclear Triple-Stranded Helicates Using Al(III) Ions Studied by Transient Absorption Spectroscopy」(Poster)
Takumi Ehara, Kiyoshi Miyata, Toshikazu Ono, Atsuya Muranaka, Yusuke Yoneda, Hikaru Kuramochi, Ken Onda. 38th Symposium on Chemical Kinetics and Dynamics. (2023.06.08)
[7] 「Al(III)二核三重螺旋錯体の Jahn-Teller 歪みを伴う発光機構の解明」(ポスター)江原 巧, 宮田 潔志, 小野 利和, 村中 厚哉, 米田 勇祐, 倉持 光, 恩田 健 日本化学会第103回春季年会(2023.03.25)
[6] 「時間分解赤外分光を用いたホモレプティック銅(I)錯体の構造 ダイナミクスの観測」(ポスター)江原 巧, 岡林 隆太, 宮田 潔志, 竹田浩之, 石谷 治, 恩田 健 第33回配位化合物の光化学討論会 (2021.08.06)
[5] 「過渡吸収分光によるアルミニウム二核三重螺旋錯体の溶媒依存発光特性の解明」(ポスター)江原 巧, 宮田 潔志, 小野 利和, 久枝 良雄, 恩田 健 日本化学会第102回春季年会(2022.03.25)
[4] 「含カルコゲンヘテロレプティック銅錯体の励起状態ダイナミクス」(招待講演) 江原 巧, 宮田 潔志, 山﨑 康臣, 坪村 太郎, 恩田 健 複合系の光機能研究会第2回オンラインライジングスター研究会 (2021.11.13)
[3] 「時間分解赤外分光を用いた白金ベイポクロミズム錯体の励起状態構造ダイナミクス」(ポスター) 江原 巧, 田中 孝記, 宮田 潔志, 齋藤 大将, 重田 泰宏, 加藤 昌子, 恩田 健 2021年光化学討論会 (2021.09.16)
[2] 「時間分解分光法を用いた長寿命銅錯体の発光機構の解明」(ポスター) 江原 巧, 宮田 潔志, 山﨑 康臣, 坪村 太郎, 恩田 健 第32回配位化合物の光化学討論会 (2021.08.10)
[1] 「リング状Re多核錯体の分子内励起エネルギー移動と分子間電子移動」(口頭) 江原 巧,下田 侑史, 宮田 潔志, 向田 達彦, 山﨑 康臣, 石谷 治, 恩田 健 日本化学会第101回春季年会(2021.03.22)
【受賞】
[3] 九州大学 エネルギー研究教育機構 令和4年度 若手研究者・博士課程学生支援プログラム 銅賞
[2] 日本学術振興会 特別研究員(DC1)(2023~2025年)
[1] 第32回配位化合物の光化学討論会 学生ポスター賞(2021.08.10)